月刊基地moratorium

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NHKにようこそ!

 

NHKにようこそ! (角川文庫)

NHKにようこそ! (角川文庫)

 

  唐突ですが、滝本竜彦著「NHKにようこそ!」について語ります。
 ちなみに僕はこの本を人生で2回読んだのですが、これからも定期的に読み直す作品だと思います。それほどまでに僕が大好きな小説です。
・・・
 まず僕は昔の作品が好きです。
 こういうと誤解があるので言い直しますが、僕は「その作品が書かれた時代の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ作品」が好きです。
 有名どころで申し訳ないのですが、例えば「踊る大捜査線」だったり、「めぞん一刻」だったり、「新世紀エヴァンゲリオン」だったり、「げんしけん」だったり、他には「古典部シリーズ」も僕の中ではそのくくりです。
 作品を通して、昔、その作品が書かれた当時にあたかもタイムスリップしたかのような感覚に陥るのが好きなのです。
 そして僕はゼロ年代の、それも特に前半の空気が大好きです。
 ゼロ年代についてはいろいろな考察が為されていて、ゼロ年代について書かれた書籍などはたくさんあるのですが、ここではそういった話は置いておいて、とりあえずざっくりと、あの雰囲気が好きなんです、ということにします。
 オタクが市民権を得ていなかった時代、だけど明らかにオタクが世間の明るみに出てきた時代。
 世紀末を経て、社会全体に倦怠感が漂っていて、それでもどこか活力のあった時代。
 そんな時代に憧れています。
・・・
 そして「NHKにようこそ!」もそのなかの一つです。
 この「NHKにようこそ!」は2002年に出版された作品であり、あとがきによると、当時のひきこもりブームに便乗して書かれた作品、というのが作者の触れ込みでもあります。
作者の滝本竜彦氏は当時、大のエヴァンゲリオンのファンだったらしく、紛れもなくあの時代を駆け抜けた人物の一人です。
 そんな作者が時代に合わせて書いたこの作品は、その言に違わず、実に正確に象徴的に、ゼロ年代を反映しているはずです。
 作品全体を通して描かれる虚無感、むなしさ、焦燥感、絶望、そして救済。
 作品の根底に流れる空気に、行間に、熱量に、一度読んだら癖になること請け負いです。
・・・
 これは僕の考えですが、
 今の時代は、高度にデザイン化されていると思います。
 スマホはその名前が示す通り、実にスマートな代物で、電源を入れれば画面いっぱいに色とりどりのアイコンが立ち並びます。
 青の背景に白色の鳥が、リアルタイムで世界中の人々の呟きを運んできます。黄緑色を背に白色の吹き出しが、どんくさいメールとは比べ物にならないほど便利に、友人知人に連絡を届けます。インターネットのgoogleは虹色の「G」がオシャレですし、インスタグラムやFacebookも言わずもがなです。
 生き方だってスマートです。
 オシャレな会社、色鮮やかなファッション、多様な人生に多様な価値観。
 世界は順調にいい方向へと進んでいます。
 だけど、です。
 なにか物足りないと思ってしまう。もっと泥臭く、アナログな生活を送りたいと思ってしまう。
 Twitterよりもテキストサイトを運営したい。
 Lineよりもメールでやり取りがしたい。
 アニメも各期に一本ぐらい、古臭い作画の作品があってもいいと思ってしまう。
 今の時代は高度にデザイン化されつくされて、あらゆる無駄が省かれて、まるで寄り道のできないRPGみたいで、つまらない。
 皆そういう思いを抱いているんじゃないんですか? それとも単に、僕が中二病なだけでしょうか?
 、、、なんか僕が中二病なだけに思えてきました。
・・・
 まあそういうわけで、ゼロ年代の空気をたっぷりと吸い込んだ「NHKにようこそ!」が大好きという話でした。
 とりあえず言いたいことは「岬ちゃんかわいい!」これだけだったりします。