佐薙ひじりに中原岬を探していた
三秋縋の恋する寄生虫を読んだ。
三秋縋といえば中高生から圧倒的支持を得ている作家で、Twitterなんかでも、中高生と思われるアカウントのbioに好きな作家として挙げられてるのをたびたび見かける。
で、なんかそれが気に食わなくて、厄介オタクである僕は食わず嫌いをして一切著作を読まなかったんだけど、恋する寄生虫からは何故かゼロ年代の香りがした。
なのでしかたなく重い腰をあげて「大衆に迎合するとするか~」と試しに読んでみてその面白さに食事すらも面倒になるほど没頭して一日かけて読み終えたのが僕だった。
と、ここで少しあらすじをば。
主人公は高坂賢吾。正常な社会生活が送れないほどの潔癖症を患っていて、潔癖症のために会社を辞めてからというもの、生きているのか死んでいるのか分からないような生活を送っている。
彼の唯一の趣味というのがマルウェア(広義の意味でのコンピュータウイルス)づくりなのだが、そのマルウェアの内容がなかなかのもので、それは、クリスマスの夜に、そのマルウェアに感染した端末の一切の通信をできなくすることでカップルの逢瀬の邪魔をするというものだった。←ちなみにここで引き込まれた僕は童貞です。
でもまあ、彼のしているマルウェアづくりは犯罪なので、それを何故か嗅ぎつけた謎の男、和泉に脅され、「ある子供の面倒を見てもらいたい」と引き合わされた少女こそ、この作品のヒロイン、佐薙ひじりというわけだ。
写真にある表紙絵を見てもらえばわかると思うが、佐薙ひじりは不良のような恰好をした少女だった。学校には行っていないようだが、なぜか寄生虫に関する学術書や論文を読み漁る希有な趣味を持っていて、寄生虫を象ったイヤリングまでつけていた。
寄生虫マニアな不登校少女と潔癖症の無職。二人は、社会に適応できないという共通点から、だんだん距離を縮めていくが、はたして…
というのが本作の序盤も序盤の導入となっています。
で。まあ、タイトルにも書いてあるから、結論から言うんだけど、僕は佐薙ひじりに中原岬を見つけたんだよな。恋する寄生虫を読み進めるにあたり、要所要所でどうしようもなく、佐薙ひじりに中原岬が重なってくるのだ。
NHKにようこそ!のオタクなら恋する寄生虫も読むべきだし、中原岬に救済を望むなら佐薙ひじりにも救済を求めてみてはどうだろうか。
第一、見た目が似ている。寄せにいっているんじゃないかってくらい、似ている。
そんでもって、二人ともなかなかに社会不適合者だ。中原岬はいわずもがな、佐薙ひじりも視線恐怖症を患っており、他人の視線が怖くて不登校になった少女だ。
主人公も似ている。僕らの佐藤くんは引きこもりだが、高坂も潔癖症のため無職で、清潔な自室に閉じこもっている。
そしてこれが一番大切なことなのだが、佐薙ひじりは高坂に依存する。高坂も佐薙ひじりに依存し、二人の関係はさながら比翼の鳥、作中では寄生虫のフタゴムシになぞらえられおり、つまりは共依存関係というやつだ。この関係が僕に、佐藤と岬ちゃんの関係を彷彿とさせた。
孤独な一人と一人が、ともに寄り添い、必死に生きようとする。
共依存といえばそれまでだが、この関係性が、僕はたまらなく好きだ。
恋する寄生虫は綺麗な話だ。NHKにようこそ!のように、エロゲ―を作ろうとしたりしないし、下校中の女子小学生をカメラで盗撮しようとする主人公もいなければ、合法ドラッグでトリップしたりもしない。
恋する寄生虫に出てくる単語は、コンピュータウイルスも、寄生虫の名前も、全てが全て学術的であり、詩的でさえある。
文章も違えば、ラストも違う。
NHKが文句なしのハッピーエンドなら、恋する寄生虫はそうじゃない。詳しく語ればネタバレになるので言わないが、彼らの幸せはひどく限定的で、だけど彼らの境遇を考えればこれ以上ないハッピーエンドで。だから、両者はやっぱり違うのだ。
それでも佐薙ひじりに中原岬の面影を探してしまうのは、僕が中原岬にいまだ囚われているからか。それとも、佐薙ひじりという存在が、僕の中で、中原岬に取って代わろうとしているのか。
一つ確かなことは、